高齢者を狙う詐欺とその対策 | 大切な人を守るために

1.深刻化する高齢者狙いの特殊詐欺

近年、社会問題として特殊詐欺が深刻化しています。

その手口の巧妙化と多様化は、多くの人々を脅かしています。

今回は、主に高齢者を標的とする詐欺の現状とその背景、手口、そして対策について解説します。

特殊詐欺の定義

「特殊詐欺」とは、被害者に電話をかけるなどして直接対面することなく信頼させ、指定した預貯金口座への振り込みやその他の方法によって、不特定多数の者から現金等をだまし取る犯罪の総称です。

かつては「振り込め詐欺」という呼称が一般的でしたが、手口の多様化に伴い、2020年以降、警察庁は特殊詐欺を10種類に分類しています。特に高齢者を主なターゲットとするのは、主に電話を介したオレオレ詐欺、預貯金詐欺、還付金詐欺、架空料金請求詐欺、融資保証金詐欺、キャッシュカード詐欺盗といった「振り込め詐欺」の類型です。

高齢者被害の現状と統計データ

特殊詐欺の被害状況は依然として深刻な水準にあります。令和6年(2024年)の統計によると、特殊詐欺の認知件数は21,043件に達し、前年比で10.5%増加しました。さらに深刻なのは被害総額で、718.8億円と前年比58.8%もの大幅な増加を記録しています。

既遂1件当たりの被害額も350.3万円に上り、これは前年比で43.7%の増加を示しており、一度被害に遭うと失われる金銭が高額化する傾向です

特殊詐欺の被害者の大半は高齢者で、総認知件数に占める65歳以上の高齢者被害の割合は65.4%に及びます。

犯行の最初の手段として電話が約8割を占めています。特にオレオレ型特殊詐欺や還付金詐欺では、99%以上が電話を介して行われています。

単に詐欺の件数が増えただけでなく、詐欺師の手口がより巧妙化し、一度だまされると高額な被害につながりやすくなっている現状です。特にオレオレ詐欺の被害額が総被害額の63%を占め、前年比243%増と突出しています。

令和6年における特殊詐欺の高齢者被害の現状をまとめたのが、以下の表です。

項目令和6年(2024年)の状況前年比(増減)
総認知件数21,043件+10.5%
被害総額718.8億円+58.8%
1件当たり被害額350.3万円+43.7%
高齢者(65歳以上)被害認知件数13,738件-7.8%
オレオレ型特殊詐欺認知件数(合計)10,413件+16.7%
オレオレ型特殊詐欺被害額(合計)502.2億円+148.9%
オレオレ詐欺被害額458.4億円+243.4%
架空料金請求詐欺認知件数5,716件+10.0%
還付金詐欺被害額63.7億円+24.1%
振込型被害額421.6億円+115.9%

2. 高齢者が狙われる理由

高齢者が特殊詐欺の主要なターゲットとなる背景には、複数の要因があります。

認知機能の低下と判断力の衰え

加齢に伴い、記憶力や判断力が低下することがあります。詐欺師は、この衰えを利用し、巧みな話術で高齢者をだまします。多くの人が詐欺の手口を知っていても、「自分だけはだまされない」という過信に陥りやすい傾向があります。しかし、加齢による判断力の鈍化は自覚しにくく、この「自分は大丈夫」という思い込みが詐欺師に付け入る隙を与えます。

社会的孤立と寂しさ

家族や友人との交流が減り、社会的に孤立しがちな高齢者は、詐欺師にとって格好のターゲットとなります。詐欺師は「あなたの力になりたい」「一緒に解決しましょう」などと言葉巧みに近づき、高齢者の寂しさにつけ込みます。

情報リテラシーの不足

インターネットやスマートフォンの普及に伴い、オンライン詐欺が増加しており、情報リテラシーの不足が高齢者が詐欺被害に遭う要因の一つとなっています。フィッシング詐欺やワンクリック詐欺など、巧妙化するネット詐欺の手口に高齢者は翻弄されがちです。

SNS型投資詐欺やロマンス詐欺は、1件あたりの被害額が高額になる傾向があります。情報リテラシーの不足は、単にITツールの使い方が分からないだけでなく、オンライン上の情報の真偽を見極める能力の不足にもつながります。これにより、高齢者は、一見すると正規の情報源に見える偽サイトやメッセージに容易にだまされてしまいます。

豊富な資産の存在

高齢者は長年にわたって蓄積した年金、貯蓄、不動産など豊富な資産を持っていることが多く、詐欺師にとって魅力的なターゲットとなっています。そのため、「必ず儲かる投資話」や「お得な土地の購入話」など、高齢者の資産を狙った巧妙な話術で近づく詐欺師は後を絶ちません。

3. 特殊詐欺の主要な分類(警察庁による10種類)

特殊詐欺は、被害者と対面することなく、電話などで信頼させ、指定した預貯金口座への振り込みなどの方法で、不特定多数の者から現金などをだまし取る犯罪です。警察庁は、特殊詐欺を以下の10種類に分類しています。

  • オレオレ詐欺
  • 預貯金詐欺
  • 架空料金請求詐欺
  • 還付金詐欺
  • 融資保証金詐欺
  • 金融商品詐欺
  • ギャンブル詐欺
  • 交際あっせん詐欺
  • その他の特殊詐欺
  • キャッシュカード詐欺盗(窃盗)

振り込め詐欺の具体的な手口

特殊詐欺の種類主な手口特徴的な常套句・キーワード
オレオレ詐欺親族を装い、事件・事故の示談金、会社の損失補填などを名目に金銭を要求。第三者が受け取りに来るケースが多い。「携帯番号が変わった」「風邪で声が変わった」「会社の金を使い込んだ」「誰にも言わないでほしい」「今すぐ金が必要」
預貯金詐欺警察官、銀行協会職員などを装い、「口座が悪用されている」と偽り、キャッシュカードや通帳をだまし取る。「口座が悪用されている」「キャッシュカードの交換が必要」「カードを取りに行く」「暗証番号を教えてほしい」
キャッシュカード詐欺盗警察官、銀行協会職員などを装い、キャッシュカードを封筒に入れさせ、隙を見て別の封筒とすり替えて盗み取る。「キャッシュカードが不正利用されている」「カードを止める」「封筒に入れるように」
還付金詐欺市役所、税務署などを装い、「医療費や税金の還付金がある」と偽り、ATMを操作させて送金させる。「還付金がある」「ATMで手続き」「携帯電話を持ってATMへ」
架空料金請求詐欺未払いの料金(有料サイト利用料など)があるなど架空の事実を口実にはがきやメールで金銭を請求。「未払い料金」「訴訟」「本日中に支払わないと」
SNS型投資詐欺SNSで投資を勧め、投資名目で金銭をだまし取る。高額被害が多い。「高利回り」「確実な儲け」「プロの指導」「少額から始められる」
SNS型ロマンス詐欺SNSで恋愛感情や親近感を抱かせ、金銭をだまし取る。「愛している」「困っている」「助けてほしい」「会いたい」
サポート詐欺パソコンのシステムエラーなどを装い、サポート名目で電子マネーなどを要求。「ウイルスに感染」「サポートが必要」「電子マネーで支払い」

オレオレ詐欺 親族を装う手口

親族(息子、孫、甥など)や、警察官、弁護士などを装い、「携帯電話の番号が変わった」「風邪をひいて声が変わった」などと事前に連絡し、本物の親族と連絡が取れないように仕向けます。その後、「会社の小切手を紛失した」「会社の金を横領した」「交通事故を起こした」「示談金が必要」「借金のかたに監禁されている」など、緊急のトラブルを口実に金銭を要求します。

オレオレ詐欺のシナリオには、「至急お金が必要」「誰にも言わないでほしい」という要素が共通して含まれています。

預貯金詐欺・キャッシュカード詐欺盗 警察官・銀行員などを装う手口

警察官、銀行協会職員、税務署職員、市役所職員、大手百貨店職員などを装い、「あなたの口座が犯罪に利用されている」「キャッシュカードの交換手続きが必要」「カードが不正利用されているので止める必要がある」などと偽り、暗証番号を聞き出したり、キャッシュカード、クレジットカード、預貯金通帳などをだまし取ったりします。特に「キャッシュカード詐欺盗」は、カードを準備させた上で、隙を見て盗み取る手口です。

警察官や銀行員がキャッシュカードを預かったり、暗証番号を聞いたりすることは絶対にありません。

還付金詐欺 役所職員などを装う手口

市役所の職員、税務署、社会保険事務所などを装い、「医療費や税金、年金などの還付金がある」と電話し、ATMを操作させて口座間送金により現金をだまし取ります。 「還付期限は今日まで」「ATMで手続きできる」などと急がせ、携帯電話で指示しながら操作させるのが特徴です。

還付金詐欺は、「お金が戻ってくる」という被害者にとって魅力的な誘い文句で始まります。市役所や行政機関がATMで還付金を支払うことや、ATMの操作を電話で指示することは絶対にありません。

架空料金請求詐欺 未払い料金などを口実にする手口

「総合情報サイトの利用料金未納」「サイトの無料期間が過ぎても退会手続きがされていないので料金が発生した」「支払わないと身辺調査を開始する、訴訟手続を開始する、自宅・会社へ訪問する」など、架空の事実を口実とし、金銭をだまし取る(脅し取る)手口です。ハガキやメールで請求が届き、不安にさせて記載された電話番号に電話させ、現金を振り込ませる手口が一般的です。

最近では、ニセの消費生活センターを案内し、お金を支払うよう助言させる新手のケースも報告されています。

SNS型投資詐欺・ロマンス詐欺

SNSなどを通じて恋愛感情や親近感を抱かせたり、投資を勧めたりして金銭をだまし取る手口です。1件あたりの被害額が高額になる傾向があります。

サポート詐欺

パソコンのシステムエラーやウイルス感染を装うポップアップを表示し、ソフトウェアをインストールさせたり、サポート名目で電子マネーを要求したりする手口です。

闇バイト

インターネット上で「即金・高収入」「荷物を受け取るだけ」などと謳い、社会経験の少ない若年者を「受け子」「出し子」として勧誘するケースが増加しています。これは詐欺の実行犯を募集する手口であり、被害者だけでなく加害者を生み出す問題もはらみます。

4.高齢者を詐欺から守るための具体的対策

個人でできる対策:電話と情報の守り方

詐欺の犯人は人をだますための電話を重ねており、「注意する」だけでは対抗が難しい場合があります。何よりも「犯人と話をしない」ことが重要です。

「犯人と話をしない」ための電話対策

在宅時でも留守番電話の設定

犯人は自分の声を証拠として残されることを嫌うため、用件がある相手はメッセージを残します。これにより、犯人と話す機会を減らすことができます。

防犯機能付き電話の導入

自動通話録音機能や、電話が鳴る前に相手に警告メッセージを流す機能(「この電話は、防犯のために録音されます。」など)を備えた電話機が有効です。既存の電話機に後付けできる詐欺防止機器もあります。

番号表示・非通知拒否サービスの利用

相手の電話番号が分かる番号表示サービスや、非通知でかかってきた電話に音声メッセージで応答する非通知拒否サービスを利用することで、知らない番号からの電話に出るリスクを減らせます。

国際電話の利用休止

国際電話番号を悪用した特殊詐欺被害が増加しているため、国際電話番号からの着信を受けないための対策も検討しましょう。

知らない番号からの電話には出ない

不審な電話には出ず、慌てず、おかしいと思ったらすぐに電話を切ることが重要です。

詐欺師の心理的誘導の巧妙さを踏まえです。一度話してしまうと、被害に遭うリスクが格段に高まります 8。ためには、留守番電話、防犯機能付き電話、非通知拒否、国際電話休止といった「犯人から電話がかかってこないようにする」という電話対策は最も直接的かつ効果的な防御線となります。

「自分は大丈夫」という思い込みを捨てる

詐欺の手口は広く知られていますが、「自分に限っては大丈夫」という思い込みが被害につながることが多いため、加齢とともに判断力が鈍りやすくなることを認識し、「自分もだまされるかもしれない」という気持ちを常に持つことが大切です。

詐欺の常套句

電話を受けた際に、詐欺の常套句が目に入るように紙に大きく書いて電話の横に貼っておくと、怪しい電話かどうか判断しやすくなります。

以下の表は、詐欺師が実際に使用する常套句と、それに対する即座の「対策」を紐づけることで、被害者が電話を受けた瞬間に「これは詐欺だ」と判断し、適切な行動をとるための実践的なガイドとなります。

詐欺師の常套句・キーワード詐欺の種類(例)対策のポイント
「携帯番号が変わった」「風邪で声が変わった」オレオレ詐欺必ず元の電話番号にかけ直して本人確認! 慌てず、家族に相談。
「会社の金を使い込んだ」「小切手をなくした」「交通事故を起こした」オレオレ詐欺お金の話が出たら詐欺を疑う! 誰にも言わないでほしい、と急がせる場合は特に注意。
「誰にも言わないでほしい」「今すぐ金が必要」オレオレ詐欺、融資保証金詐欺など一人で抱え込まず、必ず家族や信頼できる人に相談! 急ぐ話は詐欺の可能性が高い。
「口座が悪用されている」「キャッシュカードの交換が必要」預貯金詐欺、キャッシュカード詐欺盗警察官や銀行員がキャッシュカードを預かったり、暗証番号を聞いたりすることは絶対にない! カードは渡さない。
「還付金がある」「ATMで手続き」「携帯電話を持ってATMへ」還付金詐欺行政機関がATMの操作を指示することは絶対にない! 不審な電話は役所の正規の連絡先に確認。
「未払い料金がある」「訴訟になる」「本日中に支払わないと」架空料金請求詐欺身に覚えがなければ無視! 裁判所からの正式な通知以外は連絡しない。
「高利回り」「確実な儲け」「プロの指導」SNS型投資詐欺、金融商品詐欺「うまい話」には裏がある! 投資話は家族や専門家に相談。
「助けてほしい」「愛している」(金銭要求)SNS型ロマンス詐欺SNSでの金銭要求は詐欺の可能性が高い! 相手の身元を慎重に確認。
「ウイルスに感染」「サポートが必要」「電子マネーで支払い」サポート詐欺画面の指示に従わず、デバイスの電源を切る! 電子マネーでの支払いを要求されたら詐欺。
「保証金が必要」「低金利で即日融資」融資保証金詐欺正規の貸金業者が融資前に保証金を要求することはない! 会社の情報を電話帳などで確認。

不審なメール・メッセージへの対処法

身に覚えのないメールは開かずに削除し、個人情報を安易に入力・送信しないようにしましょう。不審な添付ファイルやURL等を開かないことが重要です。

家族で頻繁なコミュニケーションと合い言葉の設定

家族間で頻繁に連絡を取り合い、お互いの状況を確認することが重要です。家族にしか分からない合い言葉を決めておくことで、電話で親族を名乗る者が本物かどうかを確認できます。例えば、「中学生のときの部活は?」「妻の旧姓は?」といった具体的な質問を合言葉に設定できます。

「最近、こんな手口の詐欺が増えているらしいよ」などと、詐欺の手口や対策を話題にすることも有効です。

4.3. 警察庁・消費者庁の対策と相談窓口

警察庁は「特殊詐欺根絶アクションプログラム」を推進し、各種対策・検挙活動に取り組んでいます。不安を感じた場合の相談窓口として、警察相談専用窓口「#9110」や消費者ホットライン「188」が設置されています。警察庁LINE公式アカウントも活用されています。

5. まとめ

高齢者を狙う振り込め詐欺は、その手口が巧妙化し、被害額も増加の一途を辿っています。

詐欺師は常に手口を変化させるため、最新の詐欺情報を常に共有し、注意喚起を継続することがです。もし詐欺被害に遭ってしまった不審な電話やメールを受けた場合は、一人で悩まず、すぐに警察相談専用窓口「#9110」や消費者ホットライン「188」など、信頼できる相談窓口に連絡することが重要です。

参考文献

2025年5月24日にアクセス

手口一覧と今日からできる対策 | 警察庁・SOS47特殊詐欺対策ページ

【特殊詐欺・振り込め詐欺とは】悪質な手口と対策方法を紹介

令和6年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の 認知・検挙状況等について- 警察庁

認知症の親を詐欺や訪問販売から守る対策は?事例から相談先まで徹底解説

2022年の特殊詐欺:全国で被害370億円、8年ぶり増加―警察庁 | nippon.com

高齢者を守るための詐欺対策【ケアマネージャー・後見人

高齢者を守るための詐欺対策【ケアマネージャー・後見人

電話でお金の話は詐欺!親子のコミュニケーションで注意喚起を! - 政府広報オンライン

振り込め詐欺の手口、いざというときは| 消費生活センター - 古賀市役所

振り込め詐欺等の犯罪事例についてーゆうちょ銀行

振り込め詐欺(特殊詐欺等)被害にご注意ください | 東村山市

特殊詐欺被害にあわないために - 神奈川県ホームページ https://www.pref.kanagawa.jp/docs/f5g/anan/ad/furikome/notice/index.html

特殊詐欺とは - 警視庁 https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/kurashi/tokushu/furikome/furikome.html

還付金詐欺が増加しています!-ATMだけじゃない!ネットバンキングを使う手口にも注意

https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20230726_2.html

振り込め詐欺被害防止マニュアル https://www.city.obihiro.hokkaido.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/002/412/hurikome-sagi-boshi-manual.pdf

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