エンディングノートとは?遺言書との違い、記載内容について解説

「もしものとき」に備えて、大切な人たちに自分の想いを残しておく。いざというときに後悔しないために有効なツールが、エンディングノート(終活ノート)です。
「まだ先のことだから」「縁起でもない」と感じる人もいるかもしれません。しかし、「もしものこと」を考えることは、将来への不安を減らし、これからの人生を明るく前向きに暮らすための道しるべになります。
多くの人がエンディングノートを「死への準備」と考えがちですが、それだけではありません。エンディングノートとは、これまでの人生を振り返り、残された時間をどう生きるかを考えるノートで、あなたと大切な人たちとの「人生の物語」を綴るノートです。
このコラムでは、エンディングノートの価値と、活用法を解説します。
第1章:エンディングノートとは?
先ほど説明したとおり、エンディングノートとは、
「もしものとき」に備えて、大切な人たちに自分の想いを残しておく。いざというときに後悔しないためのツールです。
エンディングノートは、人生の終わりに備えるための単なる事務的な記録ではありません。その目的は、作成する人自身の心と、残された大切な人々への配慮という、様々な側面を持っています。
まず、エンディングノートは、自分自身への備忘録になります。人生を長く生きる中で、銀行口座、保険、年金、クレジットカード、デジタルパスワードといった重要な情報は管理に手間がかかりがちです。エンディングノートは、これらの情報を整理し、日常生活においても備忘録として活用できます。
次に、エンディングノートの最も広く認識されている目的の一つが、残された家族の負担軽減です。本人の死後、遺族は死亡届の提出から、年金、保険、銀行口座、携帯電話などの解約に至るまで、膨大な手続きに追われます。エンディングノートに必要情報をあらかじめ記載しておくことで、これらの事務的な負担を大幅に軽減できるようになります。
さらに、エンディングノートは、感謝と想いを伝えるためのツールとしても価値を持ちます。家族、友人、知人など、大切な人々への感謝の気持ちや、普段は恥ずかしくて口に出せないような想いを言葉として残すことができます。エンディングノートが、残された家族にとって、故人の想いが詰まったかけがえのない形見の品となります。
最後に、エンディングノートは、人生の振り返りと向き合いの機会を提供します。これまでの人生を綴る過程で、やり残したことやこれから挑戦したいことを見つけ、新たな目標を立てるきっかけになります。
第2章:エンディングノートと遺言書の使い分け
終活を考える際、多くの人がエンディングノートと混同しがちなのが「遺言書」です。両者は共通して個人の意思を記録するものですが、その性質と役割は大きく異なります。
2-1. 法的効力の有無
エンディングノートと遺言書の最も決定的な違いは、法的効力の有無です。
エンディングノートには、原則として法的効力がありません。そのため、財産分与や相続に関する希望を記載しても、遺族はそれに従う法的な義務はありません。エンディングノートの記載内容は、あくまで本人の「希望」や「意思」を示すものに過ぎないのです。
一方、遺言書は、民法で定められた厳格な要件を満たして作成されれば、法的効力を持ちます。遺言書に記された内容は、原則として遺産分割に際して法的相続に優先して適用されます。
2-2. 形式と内容の自由度
法的効力の有無は、その作成における形式と内容の自由度に直接影響します。
エンディングノートは、決まった書き方や形式が存在しません。市販のノート、無料のテンプレート、あるいは手持ちのメモ帳など、思い立った時にいつでも、誰でも、自由に書き始めることができます。
これに対し、遺言書は法律で定められた厳格な形式要件(自筆、日付、署名、押印など)を一つでも欠くと、無効となるリスクがあります。
2-3. 理想的な関係性 エンディングノートと遺言書による「最強の終活」
エンディングノートと遺言書は、対立するものではなく、互いを補完し合う関係にあります。この両者を組み合わせることが、最も理想的な終活戦略です。
遺言書が「物理的な財産の分配」を法的に保証する役割を担うのに対し、エンディングノートは「無形の感情や想いの継承」という重要な役割を担います。特に、遺産をめぐる家族間のトラブル、いわゆる「争族」の根底には「愛情の枯渇」があると言われています。遺言書で財産の公平性を定めたとしても、なぜそのような配分にしたのか、故人の想いや感謝の気持ちが伝わらなければ、感情的なわだかまりが残る可能性があります。
エンディングノートに、遺言書に記載した内容の背景にある想いや、家族への感謝の言葉を記すことで、遺産分割協議が穏やかに進みやすくなり、トラブルを未然に防ぐ効果が期待できます。
エンディングノートと遺言書の違いをまとめたのが、以下の表です。
エンディングノート | 遺言書 | |
法的効力 | なし | あり(民法上の要件を満たす場合) |
書き方のルール | なし、自由に記載可能 | 法律で定められた厳格な要件あり |
記載できる内容 | 制限なし、自由 | 遺産相続や子の認知など、内容に制限あり |
費用 | 数百円~数千円 | 数百円~数万円 |
確認のタイミング | いつでも確認可能 | 原則、本人の死後に家庭裁判所の検認手続きが必要 |
主な目的 | 残りの人生を豊かに、家族の負担軽減 | 遺産相続に関する意思表示 |
第3章 エンディングノートに記載すべき内容
エンディングノートに記載する内容は多岐にわたりますが、遺族の負担を軽減し、ご自身の意思を明確に伝えるために、特に重要となる項目があります。以下は、エンディングノートに含めるべき主要な項目です。
3-1. 自分自身と身の回りのこと
死後の手続きで最初に行政に提出する必要がある情報を記載します。
①個人情報
氏名、生年月日、現住所、本籍地、血液型、身分証明書の保管場所などを記します。
②金融資産・負債
預貯金(金融機関名、支店名、口座番号、通帳の保管場所)、不動産、有価証券、生命保険、年金、ローンや借入金といった全ての資産と負債をリストアップします。特に、借金などの負債も明確にしておくことで、遺族は相続放棄の手続きを円滑に進めることができます。
③保険情報
加入している医療保険や生命保険の会社名、商品名、保険証券の場所などを詳細に記載します。
3-2. 「デジタル資産」の情報
現代では、金融資産から交友関係まで、多くの情報がデジタル上で管理されています。このため、万が一の際にパソコンやスマートフォンのパスワードが分からなければ、遺族は故人の情報にアクセスできず、解約手続きなどが進まない「デジタル遺品問題」が社会問題となっています。
エンディングノートは、この課題を解決するための重要なツールです。ただし、クレジットカードの暗証番号やパスワードそのものを記載することは、盗難や悪用リスクがあるため避けるべきです。代わりに、パスワードを記載したメモの保管場所や、ロック解除の「ヒント」を記載するなどの工夫をするのがおすすめです。
また、最近では資産情報や生前の意思をデジタルで一元管理し、必要な時期に必要な情報を家族へ伝達できる「デジタルエンディングノートサービス」も登場しており、新たな選択肢となっています。
3-3. 自分の尊厳を守るための意思表示
もし、病気などで意思表示ができなくなった場合に備え、ご自身の尊厳に関わる意思を明確に記します。
記載項目は延命治療の可否、病名告知の希望、臓器提供の可否、介護の場所(自宅か施設か)などです。これらの意思を明確にしておくことは、意思決定が困難になった際に、家族が迷いなく本人の意思を尊重する助けとなります。
エンディングノートの記載はあくまで希望ですが、公正証書として作成する「尊厳死宣言書」は、より強い法的効力を持ちます。特に、一人暮らしで将来を託せる人がいない場合など、延命治療の拒否を望むのであれば、エンディングノートと併せて作成を検討することをおすすめします。
3-4. 大切な人への想いと心に残るメッセージ
大切な人へ、心に残るメッセージを記載します。
①家族・友人へのメッセージ
普段伝えられない感謝の気持ちや、思い出を綴ることで、残された家族にとってかけがえのない宝物となります。
②葬儀・お墓の希望
葬儀の規模(家族葬など)、形式(宗教、無宗教)、遺影に使う写真、喪主の希望、連絡してほしい人、お墓の種類や場所などを具体的に記載することで、遺族の負担を軽減できます。
③ペット情報
ペットを飼っている場合、名前、年齢、性格、好きな食べ物、かかりつけの動物病院、引き取ってほしい人などを記載しておくことは、ペットの未来を守るために不可欠な配慮です。
以下が、エンディングノートの主要な記載項目のリストです。
個人情報 | 氏名、生年月日、住所、本籍地、血液型、身分証明書の保管場所など |
資産・財産 | 預貯金、不動産、有価証券、ローンなどプラス・マイナスの資産全て |
保険・年金 | 生命保険、医療保険、年金手帳などの情報と保管場所 |
デジタル資産 | SNSアカウント、ネット銀行、サブスクリプションサービスなどの情報(ID・パスワードなど) |
医療・介護 | 延命治療の可否、病名告知の希望、介護場所の希望 |
葬儀・お墓 | 葬儀の形式・規模、遺影写真、喪主の希望、連絡してほしい人、お墓の情報など |
大切な人へのメッセージ | 家族、友人、知人などへの感謝や思い出 |
ペット | 名前、年齢、性格、かかりつけ医、引き取ってほしい人など |
第4章:エンディングノートの始め方
4-1. エンディングノートの書き方のコツ
エンディングノートを書き始めるとき、多くの人が「何をどう書けばいいのか」と戸惑い、完璧に書こうとして挫折しがちですが、完璧主義は禁物です。ノートの1ページ目から全てを埋めようとせず、まずは「書きやすい項目」から気軽に始めることが大切です。趣味や特技、好きな食べ物など、深く考えずに書けるところから始めましょう。
4-2. 多様なフォーマットから自分に合った一冊を選ぶ
エンディングノートには決まった形式がないため、ご自身の目的に合ったものを選ぶことができます。
①市販のノート
終活用、自分史用、備忘録用など、目的別に特化したものが多数販売されています。項目がすでに設定されているため書きやすいというメリットがあり、100円ショップでも手軽に入手できます。
②無料テンプレート
自治体や法務省、各種Webサイトで無料でダウンロードできるフォーマットも多く提供されています。パソコンで作成すれば、後から修正や更新が簡単に行えます。
4-3. 盗難と紛失を防ぐ安全で確実な保管方法
エンディングノートの作成後、最も重要なのがその保管方法です。「せっかく書いても、見つけてもらえなければ意味がない」からです。しかし、個人情報が含まれているため、セキュリティにも配慮しなければなりません。
エンディングノートの保管には、「遺された家族が必ず見つけられる場所」と「第三者による悪用を防ぐセキュリティ」という二つの要件が存在します。この2つを満たすには、2段階の管理が有効です。
保管場所として適さない例
銀行の貸金庫は、本人以外が開けるのが困難なため、エンディングノートの保管場所としては適していません。
推奨される管理方法: 仏壇の引き出しや、家族が日常的にアクセスする場所、または鍵のかかる金庫などが適しています。最も重要なのは、保管場所を信頼できる家族に共有しておくことです。
また、パスワードなどの機密情報はエンディングノートに直接記載せず、別のメモに記し、そのメモをより安全な場所に保管します。そして、エンディングノートには「機密情報は〇〇(金庫など)に保管してある」という索引情報を記載することで、情報の伝達と保護の両立を図ることができます。
あなただけの「人生の物語」を
エンディングノートは「死」のためのものではなく、「生」のためのツールです。あなたの人生を振り返り、大切な人への想いを伝えるための、「人生の物語」です。
いきなり完璧を目指そうとせず、まずは、手元にあるノートに、今日感じたことや、大切な人への感謝の言葉を書き出してみることから始めてみませんか。きっとあなたの人生がより豊かなものになるはずです。
【免責事項】
本記事はエンディングノートの作成を検討されている方へ向けて、一般的な知識や作成のヒントをご紹介するものです。法的、税務的なアドバイスを目的としたものではありません。エンディングノートは、作成される方それぞれの状況に応じて内容が大きく異なります。遺言や財産に関する記載、その他法的な効力を伴う可能性のある内容については、必ず弁護士、司法書士、税理士といった専門家にご確認ください。本記事の内容を元に行われた行為によって生じたトラブル、損害等について、当法人は責任を負いかねますので、あらかじめご了承ください。
引用文献(2025年9月7日アクセス)
エンディングノートとは?選び方・作り方と書いておきたいこと8つ - お仏壇のはせがわ https://www.hasegawa.jp/blogs/shukatsu/shukatsu-note
エンディングノートを作成するメリットは? エンディングノートの作り方や遺言書との違いなどについて解説 | 資産管理・承継 | 三井住友信託銀行
https://www.smtb.jp/personal/entrustment/entrustment-column/column-23
終活ノート(エンディングノート)とは?作り方・書き方のポイントを解説! - どっと得るメディア by ソニー生命https://www.sonylife.co.jp/media/manavi/36/
エンディングノート(終活ノート)の作り方とは? 選び方や書く内容など解説 - くらしの友https://www.kurashinotomo.jp/media/n44-ending-note/
エンディングノートとは?作成するメリット・書き方のコツ・注意点を解説! - 生涯学習のユーキャン
https://www.u-can.co.jp/course/data/in_html/1381/column/column01.html
エンディングノートには何を書く?基本の11項目や遺言書との違いを解説 - 一般社団法人就活協議会想いコーポレーショングループ
https://shukatsu-kyougikai.com/column/950
エンディングノートとは?終活に必要?ノートに書く8項目とメリット・デメリットは? - 永代供養ナビ
エンディングノートの手引き 意義・歴史・記載時期|須賀良吉 - note https://note.com/modern_hornet833/n/nf3ab7ef0babf
終活はいつから?年代別の声や背景、ベストなタイミングをご紹介 - お墓・霊園探しならライフドット https://www.lifedot.jp/ending-time/
遺言書・尊厳死宣言書 - 身元保証・終活支援
終活事例①-エンディングノートには法的効力がなかった 一般社団法人シニア身元保証協会
まず始めたい【終活やることリスト10項目】何から手をつけるべきかも解説 | みんなの遺品整理
https://m-ihinseiri.jp/article-1/syukatsu/task
終活に向けた書類整理に金庫を活用しましょう! | 金庫通販の金庫屋 https://www.kinkoya.jp/article/shukatsu-kinko/
相続・終活に活用できるエンディングノートサービスを2025年12月から提供開始 - NTT Data https://www.nttdata.com/global/ja/news/topics/2025/062700/
エンディング ノート - 無料テンプレート公開中 - 楽しもう Office
https://www.microsoft.com/ja-jp/office/pipc/template/result.aspx?id=13933
エンディングノートおすすめ人気ランキング20選。LDKが終活の専門家と活用方法も解説 - LDK by360LIFE
https://360life.shinyusha.co.jp/articles/-/35748
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