もしかして被害妄想? 認知症の方への優しい寄り添い方

悲観している老人

「お財布がない!誰かが盗んだ!」「家族が私の悪口を言っている…」

もし、大切なご家族からこんな言葉を聞いたら、驚き、戸惑ってしまうと思います。

認知症の方には「被害妄想」が見られることがあります。これは、ご本人にとっても、介護するご家族にとっても、とても辛い症状です。

では、なぜ被害妄想は起きるのか?そして、家族はどのように寄り添えば良いのか?

この記事では、認知症の被害妄想について、その特徴と原因、対応方法について解説していきます

被害妄想の特徴

被害妄想とは、事実とは違うのに「誰かに危害を加えられている」 「不当な扱いを受けている」と強く信じこんでしまう状態のことです。周りがどんなに説明しても、ご本人にとってはそれが「真実」です。

認知症の方によく見られる被害妄想には、いくつかのパターンがあります。

物盗られ妄想

「財布がない!」「通帳が盗まれた!」など、大切な物がなくなったと思い込み、身近な家族や介護者を疑ってしまうケースです。

見捨てられ妄想

「家族に邪魔者扱いされている」「施設に入れられて見捨てられた」などと思い込んでしまうことです 。孤独感や、「迷惑をかけている」という負い目が背景にあることもあります。

迫害・危害妄想

「悪口を言われている」「いじめられている」「毒を盛られそうだ」など、誰かから攻撃されていると感じてしまう妄想です 。  

嫉妬妄想

配偶者やパートナーが「浮気をしている」と根拠なく信じ込んでしまうことです 。  

これらの妄想は、単独で現れることもあれば、複数が組み合わさって現れることもあります。

被害妄想の原因

被害妄想は、単なる「思い込み」や「わがまま」ではありません。

その背景には、認知症による脳の変化だけでなく、ご本人が抱える様々な感情や状況が複雑に関係しています。

記憶力の低下

特に「物を置いた場所を忘れる」といった記憶障害は、物盗られ妄想の大きな原因です。忘れてしまった事実を、「盗まれた」というストーリーで無意識に補ってしまうのです。

判断力・理解力の低下

周囲の状況や人の言動を正しく理解できず、悪意があると誤解してしまうことがあります。

不安や恐怖、孤独感: 自分の能力が衰えていくことへの不安、将来への心配、孤独感などが、被害妄想という形で現れることがあります。

自尊心の傷つき

以前はできていたことができなくなり、「自分は役に立たない」と感じることで、見捨てられ妄想につながったり、記憶障害を認めたくない気持ちから他人を責める物盗られ妄想が現れたりします。

環境の変化

引っ越しや入院、介護者の交代など、慣れない環境は混乱や不安を招き、妄想の引き金になることがあります。

このように、被害妄想は様々な要因が絡み合って起こります。大切なのは、妄想の内容だけでなく、その裏にあるご本人の辛さや不安に目を向けることです。

対応のキホン「否定しない」「共感する」が鉄則

被害妄想の訴えを聞くと、つい「そんなことないよ!」「勘違いだよ!」と否定したくなるかもしれません。

ですが、それは逆効果です。

なぜなら、ご本人にとってはそれが「現実」であり、否定されると「理解してもらえない」「攻撃されている」と感じ、かえって興奮したり、妄想が強まったり、あなたへの不信感を募らせてしまうことがあるからです。

では、どうすれば良いのでしょうか?

まずは受け止める(傾聴・共感)

話を遮らず、まずは「うんうん」「そうなんですね」と最後まで耳を傾けましょう。

「それは怖いですね」「お辛いですね」と、感情に寄り添う言葉をかけましょう。ご本人は「分かってもらえた」と感じ、少し落ち着くことができます。

安心できる雰囲気を作る

介護するあなた自身が、まず落ち着くことが大切です。あなたの不安は相手に伝わります。

ゆっくり、穏やかな口調で話しかけましょう。「大丈夫ですよ」「安全ですからね」と安心できる言葉を伝えましょう。

ポイントは、妄想の「内容」ではなく、ご本人の「気持ち」に焦点を当てることです。

こんな時どうする?具体的な対応アイデア集

具体的な場面での対応アイデアを紹介します。

「財布を盗られた!」(物盗られ妄想)

財布を盗られたと言っているときは、「大変ですね、一緒に探しましょう」と声をかけ、ご本人の気持ちを受け止めながら探すのを手伝いましょう。

見つけたら「見つかってよかったですね!」と一緒に喜びましょう。もし先に見つけても、ご本人が「発見」できるように、そっと置き直すのも良い方法です。

見つからなくても、ある程度探したら、「また後で探しましょう」と提案し、別の話題に切り替えます。

よく「なくなる」物は、置き場所を決めておく、予備を用意しておくなどの工夫も有効です。

「悪口を言われている…」、「浮気している!」など

まずは「大丈夫ですよ」「私がそばにいます」と安心できる言葉をかけます。

気分転換を促す感情を受け止めた上で、「お散歩に行きませんか?」「好きなお茶を淹れましょうか?」など、ご本人が楽しめることや、心地よい話題にそっと関心を向けます。

愛情を伝える(嫉妬妄想など)不安や孤独感が背景にある場合は、「いつもありがとう」「大切に思っていますよ」と、言葉や態度で愛情や感謝を伝え、安心感を与えましょう。

環境を整える

明るく整理整頓

部屋を明るく保ち、特に夕暮れ時や夜間は影ができにくいようにします 。物が散らかっていると、物をなくしたり、見間違えたりしやすくなるので、整理整頓を心がけましょう。

②誤認しやすいものを減らす

壁のシミやハンガーにかけた服などが、人影や虫に見えてしまうことがあります。原因になりそうなものは片付けたり、シンプルなものに変えたりする工夫も有効です。

③静かな環境

大きな音や騒音は不安を煽ることがあります。穏やかな環境を心がけましょう。

役割を持ってもらう

簡単な家事(洗濯物をたたむ、テーブルを拭くなど)や、得意なこと(料理の味付けを見てもらう、編み物を教えてもらうなど)をお願いしてみましょう。

「ありがとう、助かるわ」と感謝を伝えることで、ご本人の自信や「自分は役に立っている」という感覚を取り戻し、不安や妄想が和らぐことがあります 。  

これらの対応は、状況やご本人の状態に合わせて、柔軟に試してみてください。

困ったときの相談場所

かかりつけ医

まずは身近な医師に相談してみましょう。身体的な原因がないか確認したり、専門医を紹介してもらえます。

地域包括支援センター

高齢者の総合相談窓口です。介護保険サービスのこと、医療機関のこと、家族の悩みなど、幅広く相談に乗ってくれます。お住まいの市区町村に必ず設置されています。

認知症疾患医療センター

認知症疾患医療センターでは、認知症の専門的な診断や治療、医療相談を行っています。

ケアマネジャー

介護保険サービスを利用している場合は、ケアマネジャーが頼りになる相談相手です。対応方法のアドバイスや、サービスの調整をしてくれます。

認知症の人と家族の会など

同じ悩みを持つ介護者同士で話を聞いてもらったり、情報交換したりできる場です。電話相談もあります。

専門家は、状況に応じて、環境調整や接し方のアドバイスだけでなく、必要であれば症状を和らげるための薬物療法を検討することもあります。ただし、薬物療法は副作用のリスクもあるため、非薬物的な対応をまず試み、慎重に判断されます。

介護するあなた自身も大切に

毎日、認知症の方と向き合うのは本当に大変なことです。特に被害妄想の対応は、心をすり減らしてしまうこともあります。

介護するあなた自身の心と体の健康も、とても大切です。

デイサービスやショートステイなどの介護サービスを上手に利用して、介護から離れる時間を作りましょう。

最後に

認知症の被害妄想は、ご本人からのSOSサインの可能性もあります。

なぜそのような言動になるのか背景を理解しようと努めることが、対応の第一歩です。

否定せずに寄り添い、安心できる関わりを続けることで、少しずつ穏やかな時間が増えていく可能性があります。

利用できるサポートはたくさんあります。あなたとご家族が、少しでも心穏やかに過ごせるよう、この記事がその一助となれば幸いです。

参考文献

厚生労働省:認知症ケア法‐認知症の理解

[https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf](最終閲覧日:2025年4月21日)

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